事業計画書

金融機関が評価する事業計画書の作り方|融資審査を通すための5つのポイント

金融機関の融資審査を通過するためには、事業計画書の作り方が鍵になるのではないでしょうか。
私自身、都市銀行やコンサルティング・ファームで企業再生や資金調達支援を行う中で、「財務基盤はしっかりしているのに、事業計画書の不備によって融資が下りない」というケースを何度も目にしてきました。
融資審査担当者にとって事業計画書は、「貸したお金を確実に返してもらえるかどうか」を判断するいわば“羅針盤”のような存在です。

しかし、事業計画書は単なる借入の申請書ではありません。
正しい作り方を身につければ、自社の強みを再確認し、将来の成長戦略を明確化する絶好の機会になるはずです。
今回は、金融機関の視点を踏まえながら、融資審査に通すための5つの重要ポイントと、実際に事業計画書を作成する際の具体的ステップを解説していきましょう。

金融機関が評価する事業計画書の基本

金融機関が見る3つの視点:返済能力・市場性・経営者の信用力

返済能力

金融機関が事業計画書を審査する際、まず注目するのが「貸したお金を確実に返せるか」という返済能力ではないでしょうか。
融資担当者にとっては、設備投資や運転資金などの支出額に対して、売上や利益をどのように確保し、返済原資を生み出すかが肝心です。
具体的には、収支計画やキャッシュフロー見込みを「十分に裏付けのある数字」で示す必要があります。

市場性

次に挙げられるのが、市場競合を踏まえた事業の将来性です。
いくら現在の収益体制が安定していても、マーケット全体のトレンドや競合優位性を無視した計画は、長期的な返済を保証できないと見なされがちです。
市場規模や成長率、競合との差別化戦略を客観データで示し、自社が継続的に発展できる根拠を示すことが求められます。

経営者の信用力

そして最後に、経営者個人の信用力も大きな審査ポイントです。
実務経験や資金繰りの知識はもちろん、自己資金をどれだけ投入しているかといった「本気度」も見られます。
「過去の借入返済歴に問題がないか」「納税状況に滞りはないか」など、人物面での信用確認が融資可否を分ける要因にもなるでしょう。

ライター独自の視点:都市銀行×コンサル経験から見る評価基準

私が都市銀行で法人営業を担当していた頃、書類審査においては「数値根拠の妥当性」と「支出の正当性」が非常に厳しくチェックされていると感じました。
シビアに見られる項目としては、売上予測の裏付けや資金使途の具体性など、書類上でいかに「根拠」を明示できるかが勝負です。

一方、コンサルタント視点で考えると、数字と戦略の整合性がない計画は「机上の空論」と判断されやすいと言えます。
市場性の分析やターゲット顧客へのアプローチ、さらには収益モデルが実行可能であることを、定量的に示すことが大切です。
まさに「AというよりもむしろB」のように、複数のシナリオを用意しながらリスク管理を行う姿勢が高く評価されるでしょう。

また、融資担当者からの信頼を得るためには「誠実な情報開示」が欠かせません。
企業にとって不利になり得る情報を隠すよりも、むしろ早めに提示しておき、対策や改善策を示す方が印象が良いのです。
こうした透明性のある姿勢こそが「千載一遇のチャンス」を確実に手にするための第一歩ではないでしょうか。

融資審査を通すための5つのポイント

1. 返済能力を示す収支計画とキャッシュフロー管理

融資を受けるうえで、金融機関がもっとも重視するのが「返済原資となる資金が確実に生まれるか」です。
そのため、まずは売上高・利益見込みといった数字面の説得力が問われます。

「毎月どの程度の返済ができるか」
「どのタイミングで資金不足に陥る可能性があるか」


など、キャッシュフローの変動をリアルに把握し、根拠となる資料(契約書・見積書など)を添付して示すことが大切です。

特に、複数の売上シナリオを用意しておくのがポイントです。
たとえば「計画通りに受注が進んだ場合」「予想以上に需要が高まった場合」「逆に半分程度しか受注できない場合」など、複数のパターンを検討しながら返済可能性を説明できれば、金融機関からの信頼度は一段と高まるでしょう。
結局は「過度な楽観論に陥っていないか」を確認する意味でも、このキャッシュフロー管理の明確化は欠かせません。

2. 事業の将来性を客観的データで補強

次に求められるのが、事業自体の持続性や成長性です。
市場の成長率や競合状況をしっかり調査して、「自社がなぜ勝ち残れるのか」を説明できる資料を揃えておきましょう。
特に、業界レポートや公的統計データなど客観的な情報と、自社の現状をリンクさせて示すと、融資担当者の納得感が高まります。

たとえばIT業界向けのサービスを立ち上げる場合、「国内IT市場は今後年○%のペースで拡大する」というデータを引用しつつ、自社サービスの差別化要素を具体的に開示するイメージです。
このように事業の将来像を数値・根拠とともに描くことが、長期的な返済リスクを低減するうえでも大変重要と言えます。

3. 楽観論に偏らない現実的な数値シミュレーション

事業計画の数字があまりにバラ色すぎると、金融機関は「リスク想定が甘い」と判断しかねません。
過去の実績や業界平均と比較した際、「どの程度の売上増・利益増なら実現可能か」を地に足をつけて検討する必要があります。
ポイントとなるのは、「AというよりもむしろB」という複数パターンの収支シミュレーションを用意し、どのケースでも返済が滞らない算段を立てることです。

さらに重要なのが、万が一計画が崩れた場合の代替策を示すこと。
たとえば「受注が想定の7割に落ち込んだ場合でも人員コストを抑えて赤字にならない仕組みをつくる」など、具体的なリスクヘッジ策まで盛り込むと、面談の場で説得力を高められます。

4. 経営者の信用力・熱意・実務経験

金融機関は、書類に書かれた数字だけでなく、経営者自身を「誰にお金を預けるのか」の視点で審査します。
過去に同様の業界で成功を収めた経験があれば、それだけで大きなアドバンテージ。
逆に実務経験が浅い場合でも、明確なビジョンと準備、そして誠実さを示すことで不足を補えます。

また、「資金繰りに対する意識や知識があるか」もチェックされがちです。
たとえば月次決算をどう管理していくか、税理士や専門家をどう活用していくかなど、実務面の体制が整っていることを示せれば、「この経営者なら安心」と思ってもらえるでしょう。

5. 自己資金・担保などのプラス要素

最後に挙げたいのが、自己資金や担保の有無といった“プラス要素”です。
自己資金ゼロの方が融資を希望する場合、たとえ計画書が優れていても金融機関としては警戒感が拭えません。
実際のところ、少額でも自己資金を用意しておくことで「本気度」や「リスク共有姿勢」を示せるのです。

また、可能であれば不動産担保や保証人などを用意しておくのも有効です。
とはいえ、担保がなくても融資を受けられるケースはありますので、あくまで“あればなお良し”という認識で構いません。
重要なのは「用意できるものは準備し、誠実に開示する」姿勢であり、それが融資担当者の信頼を高める最大のポイントとなります。

事業計画書作成のステップとコツ

要点まとめ:計画作成前に押さえておくべきこと

事業計画書を作る段階で最初に念頭に置きたいのは、「金融機関が何を知りたがっているか」を明確にすることではないでしょうか。
融資審査の目的は、一言でいえば「返済の確実性の判断」です。
そこで、次のような点を事前に整理しておくと、作成作業がスムーズに進むはずです。

  • 自社の強み・独自性を具体的に言語化できるか
    競合環境下で、なぜ自社が優位に立てるのかをまとめましょう。
    口頭で説明できるレベルまで整理しておくと、計画書の説得力が増します。
  • 資金使途や返済原資となる売上根拠
    借りた資金を何に使い、そこからどれだけの利益を生む予定なのかを明確に。
    具体的な数値を示し、計画が「机上の空論」でないことを示す必要があります。
  • シミュレーション想定の複数パターン
    需要が想定を上回る場合、逆に下回る場合など、複数のシナリオを用意しましょう。
    リスク管理の姿勢がある経営者だと認識されることは、大きなアドバンテージです。
  • 経営者自身の実務経験や信用情報
    「なぜこの事業が成功できるのか」を経営者の背景やノウハウと絡めて説明できると効果的。
    過去のキャリアと事業計画がしっかり紐付いていれば、信頼度は飛躍的に高まります。

こうした事前準備を怠ってしまうと、いざ計画書を作ろうとしても数字が定まらず、断片的な情報で終わりかねません。
逆に、これらのポイントを押さえた上で取り組めば、計画書が「会社の成長戦略そのものを可視化するツール」として機能するようになるでしょう。

実践ステップ:骨子作成から最終チェックまで

では、実際に事業計画書を作成する手順をざっくりと示してみます。
私自身のコンサルタント経験で実践してきた流れを、ポイントとともにまとめてみました。

  1. 情報整理と骨子作り
    • まずは市場調査や社内ヒアリングなどで必要情報をリストアップし、資料を集めましょう。
    • その上で、計画書の目次にあたる「骨子(アウトライン)」を作成し、章立てを大まかに決めます。
    • 骨子を作る段階で「返済シミュレーション」「市場分析」などの重要パートを先に検討しておくと、後からの修正が格段に少なくなります。
  2. 数値計画とキャッシュフローの検証
    • 売上・利益のシミュレーションを複数パターン用意するのがコツ。
    • エクセルなどで月次売上や支出、固定費などを細かく算出し、万が一のシナリオでもキャッシュが底をつかないかを検証します。
    • 返済計画の根拠となる数字は、できれば見積書や契約書などの裏付け資料を添え、「この数字はどこから出てきたのか」を明確にしてください。
  3. ストーリーとして通るか第三者チェック
    • 骨子と数字が大枠で固まったら、実際に文章を起こしていきます。
    • 書き終えたら、経営に詳しい第三者(税理士や同業の先輩、または金融機関OBなど)にチェックを依頼するのがおすすめです。
    • 外部視点から「これ、どういう根拠?」「ここは論理が飛んでない?」と質問してもらうことで、自分では気づかなかった穴が見つかります。
  4. 最終仕上げと面談シミュレーション
    • 計画書が完成したら、見やすさや言葉遣いなど細部を修正し、金融機関への提出用に体裁を整えます。
    • さらに、提出前に「もし面談で質問されたらどう答えるか」をシミュレーションしておくと安心です。
    • 計画書を読み返しながら「なぜその数字になるのか」を自分の言葉で説明できるように準備しましょう。

事業計画書の作成は、やや面倒に感じられるかもしれません。
しかし、完成した計画は融資審査だけでなく、自社の将来的な経営指針としても役立ちます。
「計画書があるから先読みできた」「当初想定したリスクに対応できた」というケースも珍しくありません。

多くの経営者が「千載一遇のチャンス」を逃さないためにも、どうかこのステップを抜かりなく進めていただきたいところです。
結果として金融機関との信頼関係を築ければ、その後の追加融資や新規投資の話もスムーズになることでしょう。

NG例と回避策

根拠なき楽観予測や他社コピペ計画

事業計画書の作成でよくある失敗例のひとつが、「毎月売上倍増」「短期間で業界No.1」など、現実とかけ離れたバラ色のシナリオを示してしまうことです。
数字に裏付けのない楽観論は、融資担当者に「この経営者はリスク管理が甘いのでは?」という印象を与えかねません。
さらに、他社の計画書を安易にコピーしてしまうと、面談で突っ込まれたときに答えられず、計画書の中身が“借り物”だと見抜かれてしまいます。

回避策としては、以下のような点に留意することが重要です。

  • 自社データから逆算して数値を組み立てる
    過去の売上実績や業界平均値など、手持ちの客観データをもとに計画を策定。
    例えば「契約済みのクライアント数×平均単価」で売上予測を算出するなど、根拠のある算出法を示すことで納得度が高まります。
  • 自分の言葉で計画を説明できるようにする
    テンプレートを参考にするのは構いませんが、“まる写し”は厳禁です。
    なぜその事業モデルを選んだのか、数字の根拠は何かなど、面談で問われる可能性のある疑問点に自信を持って答えられるよう、しっかり準備しましょう。

信用を損なう態度と書類不備

融資審査で大きく減点されるのが、経営者としての信用を損なう言動や、税金の滞納履歴などの信用情報です。
中でも、未納税金やクレジット事故情報があるのに黙っていたり、面談で不誠実な対応をしてしまうと「支払いにルーズ」「情報開示に後ろ向き」と見なされるリスクが高まります。
書類不備(必要項目の記載漏れや根拠資料の添付忘れなど)も、言うまでもなく審査の印象を悪化させる要因です。

こうしたトラブルを防ぐには、次のようなポイントを押さえましょう。

  • 未納税金や社会保険料は事前に清算しておく
    融資担当者から見ると「納税や保険料を払えない=資金繰りが甘い経営者」という判断になりがちです。
    可能な限り完納したうえで、計画書や面談でその旨を誠実に報告することで、プラスの印象を与えられます。
  • 面談では“謙虚かつ確信あるトーン”を心がける
    全てを楽観視する発言や、逆に極度に自信のない様子は敬遠されがちです。
    計画書の数字や戦略を論理的に説明しながらも、相手の質問には真摯に答えるという姿勢を持つと、「この人になら貸しても大丈夫」と感じてもらいやすいでしょう。

「根拠なき楽観予測」や「信用情報の隠蔽」は、融資審査で一発アウトになるリスクを抱えています。
だからこそ、計画書の裏付け資料を充実させることと、経営者自身の態度・信用情報を整えることが、事業計画成功の大きな鍵なのです。

まとめ

事業計画書は、単なる「融資のための書類」ではありません。
実は自社の経営戦略を可視化し、未来の成長を後押しするための重要なツールだといえるでしょう。
金融機関は「貸したお金を確実に返してもらえるか」という視点で審査を進めますが、その本質的な判断基準は事業が持続的に発展していく見込みがあるかどうかに他なりません。

今回ご紹介した5つのポイントを踏まえ、数字と根拠をそろえて計画を作成すれば、融資審査をクリアする可能性は格段に高まるはずです。
また、計画書をしっかり準備する過程で、「自社の強み」「新たなビジネスチャンス」「想定外のリスク」にも気づくことができます。

最終的には、金融機関との長期的な信頼関係を構築することこそが、より大きな投資や新規プロジェクトへの挑戦を後押ししてくれるでしょう。
ぜひ「千載一遇のチャンス」を逃さぬよう、綿密な事業計画書づくりに取り組んでみてください。
その積み重ねが、あなたの企業の飛躍につながると確信しています。